長時間勉強すればいいというわけではない
- 恭 柴山

- 8月9日
- 読了時間: 7分

暑く長い夏休み。受験生にとっては大事な受験の天王山ですね。
できるだけ長時間勉強したほうがいいと感じる方が多いかもしれません。もちろんそのやり方も一理あります。しかし、単純に勉強時間を増やせばいいわけではないのです。
証明は簡単です。皆、毎日学校で、同じ時間勉強をしています。家庭学習が同じくらいの子だとしても、テストの結果は同じではありません。つまり、勉強時間以外の影響が大きいということになります。
とはいえ、どのくらい勉強すればいいものでしょうか? どう勉強すればいいでしょうか?
まず、今の成績と受けたい高校との差、そして、その差をどのくらいの期間でカバーするのかによって、どのくらい勉強すればいいかが決まります。当然ですが、すべての子がトップ校に受かる勉強が必要というわけではないので、一律に勉強時間を決めるのもナンセンスです。つまり何をやるか何をやらないか、戦略が重要です。
そして私の経験上、またさまざまな勉強方法を研究してきた結果、勉強の効果に関する方程式があると考えています。
つまり
[勉強の効果(何時間分に相当するか)]
= [素質] × [勉強時間]
× [意識] × [勉強方法]
× [感情]
[素質]については、ずばり遺伝の影響です。集中力や記憶力、粘り強さなども遺伝の影響があります。この要素が、平均的な子を1.0とした時に、例えば1.2の子だと3時間の勉強が3時間半の勉強の成果に相当します。
[意識]は、どういう意識で勉強に取り組んでいるかです。勉強が作業になっている子が0.2とすると、「覚えるぞ」という意識で勉強している子は1.2ということもあります。本質を俯瞰して理解し、深く学ぼうという意識でいれば、1.8ということもあります。3時間の勉強が、かたや30分の効果、かたや5.4時間の効果というように、大きな差がついてしまいます。長時間の勉強を強制しても、本人がその気でなければ効果が低い理由の一つです。
[勉強方法]については、いろいろな勉強方法はありますが、中でも効果の高いと言われる勉強方法が3つあります。これらを活用すると1.5倍〜2倍の効果があると思います。しかし、どんなに効果的な勉強法でも、その子の今の習熟度や、[意識]や[感情]の部分が低いと効果も限定的となるため注意が必要です。
[感情]については、例えば、友達と喧嘩をしたあとに勉強に集中できないなど当たり前です。大人だって、夫婦喧嘩をしたり、上司にこっぴどく怒られたりしたらその日の仕事の効率は下がるのです。過度なプレッシャーの中での勉強もマイナスです。アイデンティティが出来上がっていない、感情のコントロールが未熟な中学生はなおさらです。この項目だけは、ー1.2のようなマイナスの数値がつくこともあるので、特に注意が必要です。逆に「笑い」や「リラックス」「ポジティブ」な感情は、ストレスホルモンのコルチゾールを下げ、創造性や思考力を上げることがわかっています。楽しく勉強できるように環境を整えてあげることは、不真面目なのではなく、理にかなっているわけです。
これらの要素をうまく組み合わせられれば、例えば1時間の勉強で、イヤイヤやらされている子の5時間分の勉強の成果を抜くこともできるでしょう。自主的に勉強している子でも、不安やプレッシャーが大きければ、勉強の効果も下がるので注意が必要です。
さて、上記のプロセスをどうサポートするかについてです。
これらの要素の中で、他人がサポートするのに最も容易な要素は[勉強時間]です。[意識]や[感情]の側面を子供達本人に丸投げし、授業時間や宿題を増やすことにエネルギーを注ぐのは指導側としては楽ではありますが、長期的にデメリットも大きいです。そのため私は採用していません。
一方、一番指導が難しいのは、[意識]の部分と[感情]の部分です。これらをサポートするには、単に褒めればいいというわけではありません。心理学を勉強することは当然のこと、長年カウンセリングやコーチングなどを修行する必要があります。手間もかかるので大変です。しかし、自立を支援するという面でも、勉強の生産性を上げるサポートをするという意味でも最も効果が高い要素です。
そのため、私が子供たちと接する際、最も重視している部分です。
その上で、成長段階、自立度合いに応じて調整しながら、過保護にならないよう、本人が頑張ってもできないところ以外はできるだけ手を貸さない。その代わり精神面の支えになる、というのを地道にやっていくわけです。
江戸時代の子育てについて調べると、精神面のサポートをしっかりするという考え方は当時重要視されていたようです。そういった本もいろいろ出ており、多くの市民が読んで学んでいたようです。日本人が今よりずっと精神的に強く、世界トップクラスの識字率や教育水準を誇っていたのは、これらの影響も大きかったようです。
[意識]や[感情]の要素をうまくサポートできるようになると、子供達から前向きで主体的な言葉が出てくるようになります。
例えばこの間「少し休憩しよう」と言ったところ、クラスのほとんどの子から「先生、もう少しで解けそうだからちょっと待って。絶対こたえを言わないでよ!」と言われました。学習計画を自分なりに立てて勉強するようになったり、夜中にLINEで質問を送ってくる子も出てきます。もともと学習意欲が高かった子達ではありません。1年生の頃は特に数学が嫌いで、あれだけ騒いでいたり、チャレンジをあきらめていた子達が、です。
もちろん個人差はありますし、失敗しながらではありますが、こちらから勉強時間や宿題を強制しなくても、家でスマホとの付き合い方を自分なりに工夫したり、勉強時間を確保できるようになるんですよね。自分で自分を成長させられるようになってくるのです。本当に子供達の成長は凄まじい。そして、自分で考えて動けるようになると、他人に指示されてやっている時には存在している「成長の限界」というものがなくなります。
順番として大事なことは、最初に[意識]と[感情]の部分をサポートすることかなと思います。大変ですが、すべての土台です。ご家庭での関わりも重要となりますので、私は親御さんと一緒にサポートできたらいいな、と思っています。
やる気になってきたらまずは1科目でいいので、90点以上の点数が取れるようにサポートします。それができたら、本格的に[勉強方法]を教えて[勉強時間]を増やし、2科目目、3科目目を上げていくように導く、という形です。2科目目以降はかなり短期間で上げることができます。
勉強の生産性を上げ、1科目でいいので、いい点数を取れるようにならないと、いい点数の取り方が身につかないのですよね。
つまり、大切なことはまずは勉強の生産性を上げ、そのあとに勉強時間を増やすということです。プロセスができあがれば、短い勉強時間でも、何度でもいい点数が取れるようになります。
逆に、勉強時間を増やすガリ勉スタイルで成績を上げるという成功体験(本当は失敗体験?)を積んでしまうと、あとで自分のやり方を否定できず、生産性を上げるのが難しくなります。高校入試はなんとか他人による詰め込みやガリ勉でクリアできても、大学入試では、特に難関大学に挑戦するのは、リフトなしでスキーの練習をするくらい大変になることでしょう。
うちの場合、最初その気になるまでサポートも大変で時間がかかるのですが、その後、塾の拘束時間が短い割に子供たちの成長が大きい理由は、上記のようなスタイルにもあるのではないかと考えています。
情報爆発と言われる超情報化社会、そして資本主義の弊害が目にみえる形になってきている昨今、過重労働やブルシット・ジョブが一般化しています。
そんな社会環境においても、可能な限り仕事の本質をとらえ仕組み自体を変え、生産性を上げ、家族と一緒にいる時間、自分の時間を確保すること。過酷な労働条件の企業にひっかかって、「つべこべ言わず働け。」とか言われても惑わされず、心身を壊さないためにも大切な発想ではないかと考えています。



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